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『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 著/辻村深月  感想

2009.09.30 *Wed
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
(2009/09/15)
辻村 深月

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 「あの、奥……それと」




 辻村さんの本気を久々に見た気がする。

 本書は、講談社創業百周年記念の、書き下ろし100冊企画のうちの一つ。本書を、辻村さんは一年かけて書いたらしいのですが、確かにそれだけの意気込みは感じる内容でした。
 はじめはちょっと内容がつかみづらくてきつかったんですけれど、途中から一気に面白くなってページをめくる手が止まらなくなりました。序盤のわかりにくさがあるからこそ、後半が生きてくるというのはわかるんですけどね。

 しかし、これは女性にしてみたら痛いところつかれた、という要素がたくさんあると思いますが、男の目線から見ると、やっぱり全部を理解できていないだろうなぁ、と思えるところがあります。もちろん、自分なりにちゃんと読み込んでそれなりの解釈は持っていますが、それでもやっぱり根本的なところで男と女は違うので、『理解した』と言いきるのはおこがましいかな、とも思ってしまいます。
 まあ、そんなこと言っても、面白かったことは確かです。ほんと、タイトルは特にすばらしい。







 では、下からはネタばれも含めて。







 とりあえず、問題となっているのは、女性同士の付き合い、母娘関係の二つがかなり重点的に書きあらわされてました。
 あー、もう。そこは辻村さん。『太陽の坐る場所』のときのようなぎすぎすした人間関係を描いてくれます。このときにすごいと思うのが、必要以上にことを荒げないで、ただ自然な会話の中にずれのようなものを入れて、ちょっとした感情の機微を入れているところなんですよね。別に、嫌な会話をしようとしているわけではなく、会話の端々に厭味な部分が出てしまう、というのは誰にでもあることだと思います。
 相手の一言に気を使ったり、相手の行動に合わせたりするのは現実では当たり前のことですが、だからこそ共感できる部分があるようにも思えます。男のプライドと女のプライドでは、見方が違うんだろうなぁ、と思わされました。


 みずほがチエミを追う過程で話をする旧友や関係者たちは、それぞれ一人一人違う視点からチエミを見ていて、それぞれがしっかりとした個性を持っているんだなぁ、とも思えます。ただ、ひとつだけ共通するチエミと母親の仲の良さが、人から聞くにつれてどんどんエスカレートしていく過程が、物語の一つの伏線として活用されていてすごいと思う。そういう関係だったからこそ、チエミが母に自身のことを告白した時に母の怒りが違和感なく受け入れられるんですよね。
 また、その話を観測するみずほの側で、別の母娘関係を語っていることが、非常に効果的だったと思います。どっちの親も、娘のことを想っているからこそ出た行動で、そのことを気にしつつもついつい干渉してしまう、という積み重ねが、奇妙な距離感を生んでしまったというのがわかります。

 一章のラスト付近で、みずほが母の手紙を見たときに感じた思いは、だからこそとても残酷だったと思います。『お母さん、これは、ひどい』。娘の気持ちを他人に確認する、という行為は、娘を信頼していないということにつながる。みずほの母は、自分の行動を正しいと思っていながら、それでも最後の最後で娘に拒絶されるのを嫌がったのでしょう。信頼し合うことができるほど近い位置にいるはずなのに、とても距離感が遠い、そんな親子の切っても切れない糸のような不器用さが、切なかったです。

 そんな風に、ひとつの母と娘の関係を見せられた後だからこそ、チエミとその母の関係が際立つように思います。幡目から見れば異常すぎるほどの過保護。他者から見ると限りなくいびつな関係ではあるけれども、その間には確かに愛があった。
 この親子に対しては、感情移入するよりも気味が悪いと思う方が多いようにも思いますが、それでも最後の母が娘に向けた言葉は、純粋だと思います。ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。それまで大事に大事に箱の中にしまっておいた娘を、やっと認めてあげた。子離れも親離れもできていなかった二人は、半強制的にさせられたわけですが、それでも二人の間にいびつながらも強固なつながりが残っていたことが、切ない。そういう物語だったと思います。



 このタイトルがここまでの効果を発したのは、チエミの親子の話の中で、さらりと流された過去の一つだったからでしょうね。疑問だけを提示しておきながら、必要以上に機にしなかったからこそ最後に「なるほど」と思わされたように思います。
 しかし、終わりがさわやかだって言う人が多いが、冷静に考えると二人とも傷だらけなんですよね。みずほは母との関係はおそらく今以上によくはならないでしょうし、チエミに至っては取り返しのつかない状況に追い詰められて、唯一よりどころにしていた子供さえいない。そんな痛みだけの状況で終わってしまったのも、ある種の象徴のように思えるのですが、どうでしょう。
 まあ、みずほに関しては、なんとか折り合いをつけて生きていきそうですけどね。




 さてさて。本筋はこれくらいで。

 個人的に一番怖かったのが及川さん。いやあ、確固たる自信から来るプライドってのは、正直苦手なので怖かったっす。がんばれば何でもできる、というのは確かですが、がんばることをがんばるのが大変だってのを分かってもらえないのはきついものですよ。
 一番嫌なやつは、やっぱり大地。なんだこのDQN。自分の非を他人になすりつけるやつが一番最悪だ。男でプライド高い奴はこうなっちゃうから嫌なんだよなぁ。

 逆に、よかったのはやっぱり翠。うーん、最初は変なやつが今さら出てきたなぁ、とか思いましたが、ここまで純粋なのはどうなの?と思うくらい純粋。この子の物語はちょっと中途半端でもありますし、どこかで登場してくれないものだろうか。

 あと、みずほについては、考えてみたら『凍りのクジラ』の理帆子の焼き回しだよなぁ、と思ってみたり。ただ、みずほは理帆子よりもしっかりしているか。それと、啓太さんのようないい男をつかまえるあたり、要領もいいかも。



 久しぶりに辻村さんの作品でしっくりきた気がします。やっぱり辻村さんは連作だったり短編だったりより長篇だよなぁ。それと、今回は露骨な名前ネタがなかったので、違和感もあんまりなかったですし。
 ただ、このまま完全に女性関係の話ばかりによるのはちょっと残念なので、もう少し中立の話も書いてほしいなぁ。特にスロウハイツ並みの物語をもう一度読んでみたい。がんんばれ、辻村先生。

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30歳という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。 都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、 地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチ...
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プロフィール

西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

拍手がえしに関してはこちらでご覧ください。
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年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


『空っぽの知識』の別館ですが、よろしくお願いします。
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