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『モダンタイムス』 著/伊坂幸太郎  感想

2009.03.10 *Tue
モダンタイムス (Morning NOVELS)モダンタイムス (Morning NOVELS)
(2008/10/15)
伊坂 幸太郎

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 「勇気は彼女が――彼女が持っている。俺がなくしたりしないように」




 というわけで、『魔王』の続編である『モダンタイムス』読了しました。


 岡本猛はいきなり現れて脅す。「勇気はあるか?」
 五反田正臣は警告する。「見て見ぬ振りも勇気だ」
 渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」
 大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」
 井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」
 渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて見る角度しだい」
 永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」



 様々なキャラクターが交錯し、次第に一つに真実へと近づいていく。

 伊坂さんの小説は、いろいろな人々が少しずつ関係しあって大きなものが見えてくるというものが多く、今回もその例からはもれません。
 ボリュームの割りにカタルシスなんかは少し弱い感じもしますが、しかしこの小説はあの『魔王』の続編なので、それで構わないのです。

 この作品の一番の見所は、大きな、得体の知れないものに対する怖さと、それに抗う人々の物語だと思います。


 例えば、『魔王』において。第一部である『魔王』では、ムードに流されることの怖さが語られました。そして、第二部の『呼吸』では、そういった大きな力に対する一つの抵抗が描かれています。
 その上で、この『モダンタイムス』を『魔王』の第三部と捉える場合、『呼吸』で提示されたささやかな抵抗さえも取り込まれるほどの『力』に対して、どう対応すればいいのか、が書かれているのではないかと思ったのです。



こっからちょっと長いので、単純な感想を読みたい人は水平線で囲われた先に飛んでください。






 普遍的な日常は、巨大なシステムによって流され作られている。一人ひとりはその部品であり、全体を把握することなどできはしない。もしそのシステムから外れたり、対抗したりする存在があったとしても、いずれはシステムに取り込まれてしまう。『そういうことになっている』
 実際、安藤潤也が自身の能力を駆使して行った抵抗も、自然とシステムの中に組み込まれてしまった。政治家として何かを変えようとした犬養も、最終的にはそのシステムの部品であることを自覚した。それは、一種の『運命』のようなものではないでしょうか?


 この物語は、そんなシステムの中ではじかれそうになった人々の抗う物語。そういった物語は無数にあることは、物語の途中で登場人物の一人が語ります。一人ひとりは別に特別ではない。なぜなら、それすらもシステムを動かす『部品』なのだから。
 そんな大きな存在にぶち当たったとき、どうすればいいのか。例えば、過去に犬養舜二は部品として何が出来るかを考えた。例えば、安藤潤也はお金という『力』で戦えないかを考えた。例えば、井坂好太郎は自分の出来ることで何かを残せないかと思った。例えば、永嶋丈はシステムに利用されつつも利用しようと考えた。例えば、五反田正臣はずっと同じように戦い続けることを決めた。

 そして、主人公である渡辺拓海は、見て見ぬ振りをすることを決めた。


 その一人ひとりの選択に、正しいものなんてない。『答え』なんていうものはない。ただ、その中で人々がどういう風に生きるかが問題なのだ。そういった意味で、渡辺の選択は別に悪いことではない。自分がシステムの部品であることに納得して、その上で生きていこうと思ったのだから。




 最後の渡辺拓海の選択は、こうして文字で起こしてみると微妙ですが、あのボリュームを読み終えた後だとある種の爽快感があります。
 実際、日本人のほとんどはそれなんですよね。見て見ぬ振り。流されることが一番楽だし、一番効率がいい。それは公言するとあんまりいい印象は受けませんが、しかし現実にはそういう人間ばかりです。
 問題は、心の持ちよう。渡辺はシステムを見て見ぬ振りするとは決めましたが、システムに流されるとは決めていないのです。ただ、その影響を気にしなければいい。そうすれば、流されることもない。ある意味、『確固たる意思』の一つの形であったりします。


 この『魔王』と『モダンタイムス』の両方に通ずる問題として、流される怖さがあります。
 情報に惑わされてはいけない、なんてことはもう昔からずっと言われていることですが、しかしそれを実際に実行できている人間がどれだけいるでしょうか。ここ最近のニュースを見れば一目瞭然ですが、偏ったニュースの内容を、人々は本当に公平な目で見れているでしょうか? 僕も自信はありません。表立ったニュースばかりが目立って内容を理解しきれない。そんな状態で人を糾弾することが、一番恐ろしい。
 もし、その糾弾が自分へと向かってきた時のことを思うと、恐ろしい。

 その解決の一つが、作中で語られた『関わらないこと』。実際、ニュースやネットがなくても、生きていくことは出来ます。もし必要になったとしても、自分に都合の悪い部分は見なければいい。そうすれば別に自分に害なんてないのだから。

 また、情報を逆に振り回すというのも、うまいとは思いました。嘘の情報を意図的に流して、どれが本当か分からなくさせる。もし『戦う』のなら、周りの『惑わされやすい人』は積極的に惑わし、『自分は惑わされない』という心の持ちようであることがたいせつなのでしょう。









 そんなわけで、考えたことをつらつらと書いていったわけですが。
 この小説、キャラクターとしてみたりストーリーの魅力を語るといった場合、ちょっと不足する部分があるとは思います。実際、そういった方面の評価も結構低いですし。
 でも、作品中にあるじわじわとくる得体の知れなさなんかは、すごくよかったと思います。いろいろ考えさせられることも多いですしね。そういうところを考えずに『駄作』と烙印を押すのは、どうかと思います。



 あと、こまごまとしたところの感想ですが。
 安藤商会のことで、ちゃんと詩織が出てくれてうれしかったです。潤也は、多分出ないだろうなぁと思っていたら、案の定死んでいて……でも、ちゃんと過去話みたいな感じで潤也がやってきたことが分かったからよかった。
 犬養の本名は、確か『魔王』では出ていなかったと思うので、『犬養舜二』と判明したときはあっけなかったですがうれしかった。彼も、あのあとどういう軌跡をたどったかと思えば、失踪って……。でも、そのあと潤也と結託して一緒に戦ったとかいう話があったときは、もう燃えました。
 この辺の内容、漫画の『ジュブナイル魔王』に十分使えると思うので、かなり期待しています。最終的に潤也が犬養と和解する展開なんて、すごく面白いじゃないですか。

 あと、緒方さんなんですけど……マスターですよね、この人。
 もうこの人に関しては、漫画の方ではお亡くなりになられたので期待は出来ませんが、『モダンタイムス』で出てきたときには「おお!」って思いました。空気を操る能力も、しっかりと描写されていますし。(ただ、明言されなかったのは超能力を、それが『それ』であると描写したくなかったからだろうと思います)

 他は……渡辺の奥さんなんかはすげー恐ろしいですね。浮気をしたら怖い。でもそれ以外だと最強の味方。もう登場することはないでしょうが、もったいないキャラクターだなぁ。
 結局、渡辺の浮気相手である桜井ゆかりは何だったんだろうという謎だけは残っちゃいましたね。そこはかなり気になったんですけど。伊坂さんの伏線の取りこぼしは珍しいことですが、週刊連載だったことを考えると仕方ないか。




 そんなこんなで、大まかな感想はこんなところです。

 全体として、個人的にはかなり楽しめました。これを駄作と簡単に言い切る人の気が知れない……


 別の作品でこの作品がリンクすることを祈りつつ。

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西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

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年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


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