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『囮物語』 著/西尾維新

2011.07.01 *Fri
囮物語 (講談社BOX)囮物語 (講談社BOX)
(2011/06/29)
西尾 維新

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 誰かを好きになると言うのはとても素敵なことだと思います。
 それだけで生きていこうって気になって、それだけで元気になって、ふかふかのぽわぽわになるものだと思います。






 さて三ヶ月に一度の物語シリーズがやってきたぜ。
 今回のメインは、かつて蛇に憑かれた少女。作中において奇特で奇異な、徹頭徹尾被害者でいた少女。『暦お兄ちゃん』に思いを寄せる、いたいけな少女。
 千石撫子
 なでこメデューサ。

 前振りはあまり意味がないので単刀直入に。めっちゃおもしれぇぜ第二シーズンクライマックス。四作目にして100%首尾よく書かれたと言うだけのことはある出来栄え。伏線前振り重ねに重ね、ラスボス登場、囮物語。





 ここから先はネタバレありだよ、暦お兄ちゃん。







 とりあえず、読後の感想としてはやばかったの一言だわ。
 もうね、ただでさえ、普段本音隠しているキャラクターがエゴで行動するっていう展開大好きなのに、ここまでひっちゃかめっちゃかにされたら、興奮するしかないじゃねえですかい。

 これまでずっとネタ的に前振りだけされてきた撫子ラスボス説。キャラクター的に言えば、確かに『可愛い』『後輩』で『妹の』『友達』というポジションにいる、主人公に思いを寄せる女の子、というものなので、ネタにしやすかったのも確かなんだろうな、と思います。そのうえ、彼女は登場の時から言われていた、作中唯一の被害者で、庇護対象であるからこそ糾弾されるような立ち位置には絶対にならなかった。
 そうした、これまでの巻でネタにしてきた事柄に対してしっかりと向き合って、千石撫子という一人の少女のエゴを描ききったのが、今回のお話ということだろうなと思います。

 可愛いだけの女の子。
 大人しい子の誰もが善良であるわけじゃない、と言うのは当たり前の話ではありますけれど、実際それを実感するにはある程度その人との関係を埋めなければわからないことでもあります。特に撫子に関しては、化物語で描かれた『気弱な可愛い女の子』というキャラポジションを守りつつ、『決して真面目じゃない』っていうことが何度も強調されてきました。天然であることも演技とまでは言わずとも、どこかわざと現実に対して無頓着でいようとしていたのだということが今回で分かったことですし。

 加害者が被害者でないとは言えないように、被害者が加害者になることもある。

 僕なんかはもう被害者が加害者になる話って大好きでして、必死に溜めこんだ鬱憤が爆発する瞬間と言うのはそりゃもう素晴らしいものがあると思っています。
 それは、たった一つの恋だった。ずっと恋していられれば、それで良かった。『憧れのお兄ちゃん』に、『恋して』いられれば、それで、『良かった』
 月火に追及された撫子のエゴは、はっきり言ってかなり痛い思いでした。いや、だっておんなじこと自分も考えたことあるもん。恋愛って、必要以上にエネルギーがいるものだけど、その理由って、相手も生身の人間だからなんですよね。自分と同じように、相手にも自我があって感情があって気持ちがあって。自分が好きだからと言って、その好きが完全に相手と合同になることなんて、本当に奇跡が起きない限りありえなくて。だからこそ恋愛は面白いという見方もありますけれど、だからこそ恋愛は辛いとも言える。
 失恋は辛い。
 だから、たとえその恋がかなわなくても、恋し続けることができれば、失恋だけはしないですむ。

 テレビの中のアイドルに向けるような恋慕。漫画や小説のキャラクターに寄せる恋慕。二次元萌えが楽しいのは、そのまま月火がぶっちゃけたことが理由なんですよね。もちろんそれは分かってやっていることではあるけれど、こう改めて突っ込まれると痛いとこ突かれたなぁという感じです。ここまで嫌味なく正直に突っ込まれたら、反論のしようがねぇですし。

 けれど、そんな風に突っ込めるということは、それは月火が『強いから』に他ならないというのも事実としてあります。現実を生きて、現実の辛さにさらされてなお、『自分』を奮い立たせることができるような強さ。やっかみもありますけれど、そういうのってほんとすごいなと思います。僕自身が撫子と同じようにあまり現実と向き合うような強さを持っていないから余計にそうなんですが、月火の憤りも分かるし、それ以上に撫子の抱く『しんどい』っていう気持ちも痛いほどわかる。
 しんどいんです。人生って。
 人と適度にかかわり合って、ただなあなあに生きていけばそれで楽なのに、なぜか人生を送る上で誰かとの衝突は避けられない。それは敵対と言う意味だけじゃなくて、友人との関係にしたってそう。ちょっとした食い違いに歯がみして、イラついて、わかり合いたいのに分かり合えない。そんなことってしょっちゅうです。あと一歩踏み込めば分かり合えるのかもしれないけれど、それ以上傷つくのが嫌で面倒くさいから黙りこむ。処世術、と言えば聞こえはいいけれど、実際逃げてるだけ。逃げて逃げて、先送りにして。逃げるのは悪いことですけれど、逃げないで立ち向かうって、ほんとそれだけで強い力が必要なんです。
 けれど、手前勝手なことに逃げている間でも鬱憤だけはたまっているんですよね。無抵抗でいる人間が心まで無抵抗なわけがない。『出来ない』だけで『やれない』わけじゃない。たまりにたまった鬱憤はどこで晴らすのかは人それぞれですけれど、撫子の場合、そうした悪い感情は全部『暦お兄ちゃんへの恋』に向けることで処理していて、それがどうしようもなくなったから、今回の暴走が起きた。

 撫子がどうしようもなく可愛いところは、最後の選択がエゴなところだと思います。
 これが変に『暦お兄ちゃんへの愛』で更生したり、阿良々木くんを殺すことをためらったりするようだったら、彼女は結局のところ都合のいいキャラクターでしかなかった。けれど、最後に開き直った彼女は、ただ自分の好きなことをやろうとして、自分のために阿良々木くんを殺そうとした。自分のことしか考えていなくて、わが身だけが可愛くて、自分を可愛がるためだけに、行動する。それだけを見ると本当に最低最悪の悪女ですけれど、これまでの鬱憤の積み重ねと、千石撫子の中の『私』の感情を思うと、それがすごく愛おしくすら感じる。いや、まあ現実にこんな子がいたらドン引きですが、キャラクターとして、本当に『可愛い』女の子であるというのはブレなかったというのがすごいなと思います。『可愛い』は『いい子』の同義語じゃないし、『可愛い』は『邪悪』の対義語ではない。


 そんなわけで、いったん幕間。
 次回が臥煙伊豆湖事件(もうこう呼ぶしかないだろ)を消化して、最後の最後で決戦。分かりやすい『敵』をどういなすかわかりませんが、これで恋物語(ひたぎエンド)への前振りはなされました。よかったね、暦お兄ちゃん。
 まー、さすがにこの後に及んで予告詐欺とかしないだろー。うん、たぶん。



 あといくつか語ることあるな。

 撫子に関してもまだちょっと語り足りない感はあるんだけど、もう自分この話でますます撫子好きになっちまったぜ。とりあえず、教室での喝破のシーンは真剣にアニメで見たいと思ってしまった。いや、これたぶんそうとうカタルシスあると思うよ。あと最後の神社で待つ撫子とか。ってか、今回はほんとうにビジュアル的に映えるようなシーンが多かったと思う。ナレーションの痛々しさとかもあるしね。

 そして、今回めっちゃ目立ってた月火ちゃん。やばいなー、いい女すぎるなー。現実だとほんとつき合うのに力使うタイプの女の子だけど、だからこそ、もしうまく付き合えたら最高のパートナーになるだろうなと思う。羽川さんみたいな『正しい』子じゃなくて、悪いこともひっくるめたうえで自分を信じれいける強い子。阿良々木君があまり自分の考えを押し付けないタイプの主人公なので、月火の方がどちらかと言うと熱血主人公っぽい気がする。月火△
 月火に撫子が追求されるところはホント物語シリーズの中でもかなり好きなシーンになるかもしれない。精神的凌辱に近い情感があるんだけど、あれのおかげで撫子の中の見て見ぬふりしてきた深奥が暴かれたわけですしね。ってか、月火くらいはっきりいう女の子ってやっぱり魅力的だと思う。もちろん現実で付き合おうとするとすっごい傷つくと思うけど、それだけに腹を割った関係が築けるだろうし。そんな彼女を籠絡した蠟燭沢くんってほんとどんだけ出来た人間なんだ……。

 あとはまあ忍野扇か。ぶっちゃけラスボスって言うんならこいつこそがラスボスなんじゃねーかと思ってしまうけどな。まあ、撫子は自業自得の気があるから扇が何もしなくても何かしら問題起こしたと思うけれど、それにしても余計なことしやがってという感じはしないでもない。つか、今回また女の子になってるし。
 しかし、新学期の次点で当たり前のように駿河の前に現れてたりしたし、こいつはやっぱり問題を起こすとかそういうタイプの相手じゃないんだろうな。



 そんなわけで、個人的に大ブレイクな、撫子が可愛い物語でした。
 決着は半年後。お楽しみに。
 ……ってかあれ? これ作中時間11月じゃなかったっけ? だったら卒業式ってよんかげ(ryうわなにするやめ

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CATEGRY : 西尾維新

COMMENT

いやもうマジでヤバかったですね…。
真面目な話何度「ヤベェ」って読んでるとき呟いたか分かりませんよ。

撫子ラスボス説がまさか現実になるなんて思ってませんでしたよ…。もう完全に予想の遥か上をぶっ飛んで行かれましたw。

『エゴ』。これほど撫子のあの状態を表すのに適した言葉は無いですね…。
ただこの『エゴ』なんて決して肯定的な意味で使われることがない言葉が『可愛い』って言う肯定的な感情の大きな要因になるって言うのが本当に不思議ですよね。もっと凄いのはその『可愛い』って言葉がただ肯定的な気持ちとして描かれてなかったってことなんですけど。
でも、西織さんの感想読んで人間が人間らしくあれるのは『エゴ』があるからなんだろうなって言うことをうっすらと思いましたね。『エゴ』があるから人を好きになって人に好かれるんだろうとも。

いやもうホント今回の話に限っては全力でアニメにして欲しいですね…。色々と映えそうな場面が多すぎて困りますよ…。

ホント西尾維新は素晴らしいです。『可愛い』だけの物語をありがとうと全力で言いたいです。
もうオレは何があろうと彼に一生ついていきますよ!!
2011/07/01(金) 20:01:40 | URL | tokuP #- [Edit
まあ個人的にはなんかやらかすだろうなぁとは思っていましたが、まさか日常生活に戻れないレベルにやらかすとは思っていませんでした。せいぜい蟹VS蛇の修羅場程度だろうと……。

エゴっていうのは否定的な意味で用いられることが多いですし、実際その通りではありますが、しかしそれを持っていない人間はどこにもいないんですよね。だからこそ、みんなそれを出来るだけ抑えて生活しているし、その抑えがきかなくなった瞬間に衝突が起こる。撫子の場合はこれまで何もしてこなかったからこそ爆発した瞬間に取り返しのつかないことになってしまった、と考えるべきなんでしょうね。

むしろ今回の話で驚きだったのは、『可愛い』という要素を男性作家が否定的な意味で使ってきたことだと思います。いや、ここで西尾が実は覆面女流作家だった(ナンダッテー)的なことを言いたいわけではなくて、そうした『要素』を多面的にしっかりととらえることができるという作家としての力を見せつけたと言えるんだと思います。あとがきで書かれているような、『作者の考えが透けて見える』という話で言うならば、西尾維新という作家の考えはどちらか片方じゃなくて両方面からみるべきだと主張しているんじゃないかなーと思えますね。

ではでは、こんなところで。
2011/07/02(土) 22:13:57 | URL | 西織 #fBhJEaUc [Edit
こんにちは~、Mr.Kidsです!!
いつもコメントありがとうございます!!
ふら~っと西織さんのブログに立ち寄ったら、僕よりレベルの高い囮物語の記事があるではないですか!!w
なので、コメントさせていただきますね~。

>読後の感想としてはやばかったの一言だわ

やばかったですねぇ~!!w
ホント最後のほうビックリしまくりでしたw。
まぁ撫子がああなるのは、もしかしたら凄く自然なことだったんでしょうけどねぇ。

>千石撫子という一人の少女のエゴを描ききったのが、今回のお話ということだろうな

まさにそうですね!!
終始、彼女のエゴで物語は進み、壊れたんですもんね。

>二次元萌えが楽しいのは、そのまま月火がぶっちゃけたことが理由なんですよね。

まさしくそのとおり!!w
二次元の女の子はどんだけ想っても、決して報われない。
でも、失恋はしない。
たぶん、僕の二次元が好きな理由の一つが、残念ながらこれだと思います。
月火ちゃんに言われて、西織さんに指摘されておいて良かったと思います。
本気で「俺の嫁~」とか言い出す前にw。

>自分のことしか考えていなくて、わが身だけが可愛くて、自分を可愛がるためだけに、行動する。

ホント自分勝手ですよねw。
でも、本質を突き詰めれば、誰しもがそう。
撫子の爆発の規模が大きすぎただけでね。

>教室での喝破のシーンは真剣にアニメで見たいと思ってしまった。

これはホント同意です!!w
ブチ切れた撫子がどう動いて、どう叫ぶのか、凄く興味がありますw。
でも、どこまでアニメになるんですかねぇ・・・。
偽物語の下とか、アニメ化できるんでしょうか?w

いやぁ、二次元萌えの部分は、ホント核心をつかれました。
まるまま月火ちゃんのぶっちゃけたことがあてはまりますもんね。
それを西尾先生がライトノベルで、二次元萌えの小説で書くっていうところにも、可笑しさがありますよねw。

ではでは、駄文失礼しました!!
2011/07/10(日) 19:04:39 | URL | Mr.Kids #- [Edit
どうも~、コメントありがとうございます!
囮物語に関しては、正直語れば語るほど陳腐になると思っていたのであまり他の方のブログにコメントしようとは思っていなかったのですが、こうしてこちらの記事も見てもらえてうれしいです。


僕が西尾維新のファンである理由の一つに、キャラクターに二次元的なキャラ付けをしておきながら、それをちゃんと人間として成長させているところがあります。
戯言シリーズのころはまだ実験的というか、まだキャラを記号として扱っていたきらいがありますが、人間シリーズや、刀語を書いたあたりから方向性が変わってきて、キャラクターにとっての結末、を大切にしているように感じます。だからこそ、化物語の第二シーズンはこれだけ盛り上がっていますし、ここにきて超ド級の問題を起こしてしまいましたが。

真宵はまあ、死んで成長することがないという縛りがあるため例外としても、羽川翼や神原駿河にしても、それぞれ彼女たちの落ち着くべき場所に落ち着いたのを考えると、撫子もやっぱりこういう風にならざるを得なかったんだろうな、と思います。これが、もう少し立場が違っていたり、ストーリー上のエピソードが別のエピソードだったりすればよかったんでしょうけど、年下の無力な女の子というポジショニングを解体するとなると、確かにこれ以上の物語の風呂敷は広げられないなぁと思います。

Mr.Kidsさんも言うように、撫子に限らず人間だれしも自分勝手なもので、その自分勝手をどう消化するかというのが人生の一番の問題だったりするんじゃないかと思います。まあ、撫子はこんなことになっちゃったけど……。これ、ハッピーエンドになるのかな……?

二次元萌えの部分なんかは、むしろそういうことを分かった上で西尾さんは萌えに浸っているべきである、と言っているんじゃないかとも思いますけどね。少なくとも萌えを否定するような人が書くような小説ではないですし。記号的な萌えは否定していますけど、本質的なキャラ萌えの考え方はラストの撫子を考えるとかなり根強く残っていますし。つかヤンデレスキーにはたまらん(ダメだこいつ早くなんとか(ry )

そんなわけで、やっぱ語りだすとグダグダ長くなってしまいましたが……。Mr.Kidsさんの次の感想も楽しみにしていますねー。
2011/07/10(日) 23:01:17 | URL | 西織 #fBhJEaUc [Edit

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プロフィール

西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

拍手がえしに関してはこちらでご覧ください。
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年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


『空っぽの知識』の別館ですが、よろしくお願いします。
http://tukimaturi.blog89.fc2.com/

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