This Archive : 2009年11月

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『スキップ』 著/北村薫  感想

2009.11.25 *Wed
スキップ (新潮文庫)スキップ (新潮文庫)
(1999/06)
北村 薫

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 そう口にした瞬間、自分が失ったものは二度とこの手に戻らないと悟った。





 以前から面白いという評判は聞いていたのですが、先日図書館で発見したので読んでみました。
 評判がいいだけあって、かなり面白かったです。ところどころ無理があるようにも思えるところはありますが、真理子が自分の境遇を受け入れていく様子は、丁寧に描かれていたと思います。

 読み終わったのが一週間ほど前なのですが、それから何度か読み返すと、全体の構成がきれいにハマっていてびっくりしました。ゆとりがありそうで無駄がない、そんな文章です。






 では、ここから下はネタバレありで。







 しかし、これ自分が高校の時読んでたら、かなりショック受けるか、受け入れられなかったかのどっちかだっただろうなぁ、と思います。
 この小説で描かれているのは、失ったものを取り戻す物語ではなくて、失ったものを受け入れて前に進む物語。今の自分もそうですが、これからある未来が一瞬にして消え去って、結果だけ提示されたら、はたして受け入れることができるだろうか。

 青春時代、って簡単に言われますけど、それってやっぱり大きいものなんだなぁ、と実感しました。大きな責任もなく、ただ目の前のことだけを気にしていればいい時代。子供から言わせれば、自分たちも大変だ、って言うでしょうけど、やっぱり大人と子供では、感じ方が違います。
 一つ一つの経験が『初めて』で、それを重ねて大人になる。けれど、その『初めて』を知らずに、いきなり責任のある、すでに道を途中まで行き切ってしまった状態にいきなり押し上げられてしまったら、自分ができなかったことがあまりにも多すぎて絶望してしまうんじゃないでしょうか。

 その喪失感は、本書の序盤で嫌というほど描写されています。失った若さ、就職、恋愛、結婚、そして出産。そういった、自分にとって大切なはずのことを経験していないのに、眼の前にはそれが行われたという結果がある。受け入れる受け入れない以前に、信じられないと縮こまってしまうのが正しいありかたじゃないかとすら思います。

 そこから立ち上がって、とりあえず前に進もうとするのは、若さゆえなのかそれとも性格の所為なのかはわかりませんが、それから真理子のたった独りの戦いが始まるわけですが。これが、ところどころうまくいきすぎているところもありますが、真理子が懸命に事態を受け入れようとしている姿が丁寧に描かれていて、読むのを飽きさせません。大きな事件を起こすわけでもなく、ただ見知らぬ教師と言う職業に少しずつ慣れていく真理子を通して、真理子の気持ちに感情移入させていく。

 真理子がひたすら前向きな性格に描かれているのは、今の自分を受け入れる『覚悟』を得る瞬間を際立たせるのにうまく作用していると思います。最初は現状を打破するために自分の中に飛び込んで行って、そこから少しずつ慣れていくことで、その『未来の世界』にとっての自分を知っていく。そして、自分の現状を認めざるを得なくなっていく。
 その間に、失った時に悲しむことはあっても、惜しむことはなかったのは、多分まだ真理子自身が、『四十二歳の自分』を認め切れていなかったからだと思います。別に夢か何かと思っていたわけではないでしょうが、やはりいきなり未来に飛んだと言っても、実感できるものじゃないです。頭ではわかっていても、本質的なところで認めてはいなかった。両親の死も、自分の現在の生活も、全部他人事のような意識だったのだと思います。
 それが、教師として生活して、少しずつ『四十二歳の自分』を知っていくことで、意識しないうちに自分自身で認めていく。
 そして、最後に池ちゃんと再会した時に、自分の失ったものの大きさを実感したところは、読者にさえ大きな穴を作るほどの衝撃だと思いました。それ自体は、初めからわかりきっていたことですが、それを『真理子自身』が認めることが、大きな衝撃となりました。
 

 この物語の大切なところが、救いがなく、最後は真理子が自分の意思で生きようと決心しているところだと思います。
 これがありきたりなタイムスリップ物語だったら、このあと真理子が過去に戻って人生をやり直すという終わりが正しいのでしょうけれど、本書で語られたのは、『失った時は戻せない』ということと、『自分は自分でしかない』ということ。たとえどんな方法を用いたところで、四十二歳の真理子が十七歳の真理子に戻ることはできない。とはいえ、四十二歳の真理子は、どうあがいても、十七歳の真理子が成長した姿でしかない。その未来に不満があったり思うところがあるとしても、それを受け入れて前に進むしかない。
 これは、真理子に限った事じゃなくて、誰にでも言えることだと思います。今の自分が嫌い、現状が受け入れられない。そういう人は、たとえ過去に戻ってやり直したとしても、今と同じ結果を得てしまう。結局、自分をどう受け入れていくのかが、人生で大切なことなんだ、ということを伝えたいのだと思いました。




 そんなわけで、これは面白かったです。できるなら、自分も四十近くなったらもう一度読み返したいところ。
 あと、『時と人』シリーズとして二つあるそうなので、そちらも近いうちに手に取りたいと思います。


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CATEGRY : 北村薫

『とある魔術の禁書目録20』 著/鎌池和馬  感想

2009.11.17 *Tue
とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉 (電撃文庫)とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉 (電撃文庫)
(2009/11/10)
鎌池 和馬

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 「……どうやら、私には変形機能があるらしいぞ?」



 シリアスな後半において一気にギャグに落してくれたエイワスさんパネェっす。

 どうも。男の子ならば誰もが憧れる変形! けれど人間がやった場合はぶっちゃけ変態だよね? 西織です。
 ちょっと遅くなりましたが、禁書の新刊の感想行ってみよー!





 ここから下は恒例通りネタバレありよん?








 とりあえず、内容が濃いので、一つ一つ順々に。


・変態集団『グループ』
 まじめな口調でロリかっけーこと語っちゃってる一方さん最高っすねほんと!
 いやあ。ふつうガキに振り回されるなんてないですって。いやあ、やっぱ本物の悪党は違うなぁ。どんな変態ゼリフもかっこよく見えるんだからぁ!
 ってか、結標さんってば、やっぱりショタコンだったんですね。いや、単にイメージだったけど。
 あと、エツァリお兄ちゃん。女子高生の尻追ってる暇があったら家族サービスしなきゃ♪


・滝壺バニー
 素晴らしきナイスタイミングで流れるHANAJIよ、ぐっじょぶ!

 ……しかし、この下りは冷静に考えてあらすじの文章に入れる必要があったのだろうか?


・スパークシグナル残党狩り戦
 エツァリお兄ちゃんの役立たず!!
 ……いや、ほんと、何やってんだこのロリコン。


・学園都市の性の乱れ
 一方さんの能力ってほんとなんでもできるな。
 アレイ☆が何考えてるかわからんけど、もう学園都市の上位組はこういう人命救助に当たった方が世界平和になっていいんじゃねえのかとかなり真剣に思うわ。


・戦闘中のすごいパンツ
 浜面さん前見てくださいお願いします。


・イケメン女性パイロット
 いや、イケメンすぎるだろこの人。女性だけど。
 どうせならこのネタ、もっとゆっくりやってほしかったなぁと思ったり。


・無能力者VS超能力者
 何気にこの巻の中でも一番熱いバトルじゃないでしょうか。
 上条さんの場合は、レベル0はレベル0でも、あんな反則右手(と頑丈すぎる体)を持っていますから、本当の意味で最弱ではないですし。それに加えて浜面さん、この人はレベル0で能力そのものも使用することを考えないほど弱いという、まさにレベル0にふさわしい人間。さあ、ここに最強と最弱の戦いの火ぶたが切って落とされた!

 ……しかし、一方さんやっぱ戦闘慣れしすぎだよなぁ。もうこれ、かみやん勝てないよ。

 そして、滝壺に助けられて、『強くなりたい』と願う少年漫画魂を持った浜面さんがかっこいい。


・親船さん籠絡作戦
 んー、正直一番さめちゃった話。
 なんだかなー。一方さんがダークヒーローなのはわかりきってるから、こういう茶番やらないでほしいなぁとちょっと思ったり。説得するにしても、もっと別の方向からすべきだったとおもうわ。


・親船さん身代わり作戦
 エツァリお兄ちゃん名誉挽回♪


・エツァリVSテクパトル
 しかし、この科学組の話の中でやっぱり海原の話だけが浮いてるよなー。
 まあ、『とある魔術』の話ですから、むしろ一番面白いところでもあるんだけど。原典同士のぶつかり合い。そすて、毒を食らわばの精神で捨て身のエツァリにこそ勝機があるっていうのもかなりいい感じ。
 全身ボロボロになりながらも、順調にパワーアップしているエツァリはいったいどこに行くつもりだろう……?

 そして、トチトルの話とかって、DVD特典の話らしいけど、いつかちゃんと文庫で出てくれるのかな? かな?


・超能力者VS甲賀の末裔
 まさかここで木原神拳(笑)を見ることになろうとは!
 いやあ、ほんと木原さんってすごかったんだなぁ。

 それにしても、一方さんは杖のおかげでまた一歩最強への道を歩んでしまったな……。自分で杖改造するとか、この人、なんだってできるなぁ、ホント。


・絹旗VSステファニー
 ちゃんとSS2で出てきた意味があったんだなー、って感じの戦い。
 まあ、後に待つスプラッタホラー(笑)の前哨戦なわけですが、なかなかに能力バトルしてて面白い感じです。
 まあ、勝ち方はそれしかないよなー、って話だったんですが、戦況が小出しされていたおかげで緊張感が保ててよかったです。


・そして、恐怖の鬼ごっこ
 「……はーまづらぁ……」
 浜面の「俺達は生き残ったんだ!」発言の後だっただけに、このワンシーンだけで爆笑してしまいました。
 いや、もうこのあとは、マジで地獄のおにごっこですね。イザナミの姿を見たイザナギのごときホラーアクション。B級スプラッタホラー並みの怖さと笑いを提供する、麦野さんの再登場です。
 結構シリアスな展開のはずなのに、どうしてこんなに笑えるんだろう。途中麦野がしんみりすること言うシーンがあったのに、そのシーンであのイラストですからね。そりゃあ出オチってものですよ。実際即座に前言撤回ですし。
 ってか、むぎのんったら、随分下品になったなぁ。逃げている方はそんな余裕はないとはいえ、見ているこっちは何言ってんだあんた、って感じですよ。
 ま、その地獄の鬼ごっこも、知恵と意地でなんとかする浜面さんはホントある意味上条さん以上に化物だな。

 それはそうと、さらりと明かされた垣根帝督の現状がちょっとしゃれになってない……。むぎのんは聞き伝えみたいだけど、どこまで本当なんだろうか。あのメンヘラ男、一回で消すにはもったいないと思うんだけどなぁ。


・ドラゴンことエイワス
 あー、ドラゴンって、上条さんのことではなかったのか。
 この辺でいい加減2巻のあの伏線回収してほしいんだけど、やっぱり違ったのか。んー、ここまで来ると、ほんとうに2巻のドラゴンは夢に思えてくるな。

 それはそうと、超重要人物っぽいエイワスですが、どうもなんのための存在なのかわからんなぁ。いったいいつになったら風呂敷畳むんですかかまちー。

 とりあえず、やっぱり一方さんの黒い翼は、アレイスターが目指すものの足がかりになるものではあるみたいだけど、まだ成熟度が足りない、と。まあ、一方さんがアレ使ったのまだ三回だしね。それと、最初に一方さんがエイワスに襲いかかったときにエイワスの防衛機能が働いたみたいだけど、そこでもちょっと『勝手に動く翼』とかなんとかいっているけど、この翼も、一方さんと同じもんなんだろうか。
 『オシリスのころのもので、ホルスを生きる私には~』って単語から、やっぱり魔術絡みではあるみたいだけれど、これも途中の言葉が崩れていることを除いてもわかりにくいよなぁ。ちょっと調べてみたら、ホルスはオシリスの子供か。ということは、オシリスのころのもの、ってことは、過去の時代のもので、後世であるホルスには通じないってことか? この辺、くわしいひとが解説してくんないかな。
 ってか、そもそも全体自体が明かされていないから、考えるだけ無駄とも取れるけれど。



・そして、ロシア編へ
 ボロボロになった一方さんは、ラストオーダーを連れ去ってロシアへ。
 一番行くの大変なのこいつだよなぁ。そもそもが満身創痍なのに、病院に行くこともできずにすべてのバックアップを切り捨てちゃってるんだから。ロシアまでの足もないのに、どうやっていくつもりだろう。
 まあ、けがは能力のおかげで治りが早いとは言え、そもそも能力制御のチョーカーのバッテリーがいつまできくことか……。とりあえず『電話の声』のジャミングは防いだから、あとはバッテリーをどうにかするだけで、それって自作してたっけ? 確か自分でどうにかするとか言っていたこともあったような……。ちょっと曖昧だなその辺。

 それに対して、けがと体調はギリギリだけど、一番ましな浜面&滝壺コンビ。
 いや、ちょっと待ってよ。さらりと流されたけど、これって禁書初のキスじゃね? え、うそ、うそでしょ。うっはー。やべぇ、テンションあがるぞ畜生! ってか、滝壺の方からかよ! そのギャップやばいぜ。
 浜面がどんどんかっこよくなっていくわけですが、ほんと不確定すぎる要素だよな、こいつは。滝壺だけの正義の味方、っていうのもまた面白いし。話の都合上上条さんが主役だけれど、こういう『誰かのための正義』も描きたかったんだろうなぁ。
 最後に滝壺が「離れないで」って言ったことで、それまでのマイナスの覚悟をプラス方向に変える浜面かっこいいです。

 そして、最後の一人。我らがツンツン頭、上条当麻。
 こうして18巻の続きに行きついたわけですが、こいつもほんとどうするつもりやら。そもそもイギリスって島国ですからね? しかも今禁書の世界では海路が使えなかったはずだし……。


 なにはともあれ、その辺は20巻を待ちなさいということで。



 うわぁ。ほんと毎回引きが最高だな畜生。早く20巻読みてぇぜ!






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CATEGRY : 鎌池和馬

『バッカーノ! 1705』 著/成田良悟  感想

2009.11.15 *Sun
バッカーノ!1705―The Ironic Light Orchestra (電撃文庫)バッカーノ!1705―The Ironic Light Orchestra (電撃文庫)
(2007/07)
成田 良悟

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 「お前はまるで……『笑顔中毒者(スマイルジャンキー)』だな」



 なんか最近、あんま本読む時間とってないなぁ。
 ま、そんなわけで、ひさしぶりに読んだバッカーノ。返却期限が近付いているのでとっとと感想を。

 今回の話は、錬金術師たちの過去話。思春期真っ盛りのヒューイと当時から狂っていたエルマーの出会いの物語。しかし、これはシリーズとしても面白いけど、単体としても結構面白かったです。





 では、ここから先はネタバレ含めて。





 いやあ、エスペランサいいキャラしてるなぁ、おい。
 もうこの話で一番気に入ったのはこいつです。うーん、極端なまでの女性信仰、一歩間違えれば変態まっしぐらなのに、ここまで愛すべきキャラになるというのも不思議です。
 あー、過去編でしか出てこないってのはちょっともったいないなぁ。次に予定されている1710でも登場してくれることを祈る。


 ヒューイに関しては、1930年代の彼からすれば本当に子供のころが描かれているわけですが、それでも違和感なく受け入れられる感じがしましたね。こういう屈折した過去があるからこそ、1930年代での落ち着いた雰囲気もわかる感じがしますし。
 それと、カラーページで、エルマーについてどう思う、という質問に対して、1705のヒューイは、照れ隠しなのか本心なのかわからない毒舌はいていますが、2002の方では最高の親友とまで言っているんですよね。その時間の流れの間に何があったかはわかりませんが、これはなんだかすごく人ときました。本編とは全く関係はないですけれど、こういう細かい心情の変化を描かれていると面白いなぁ。

 しかし、まあ今回のヒューイはただ振り回されただけでしたね。彼自身やってることはかなりスケールでかいのに、周りの人外共がww
 そうやって散々振り回されまくって、最終的にそれまで厄介にしか思っていなかったエルマーに興味を持つようになっていった過程がなかなかおもしろかったです。ただ、できることならモニカにも視点を当ててやってくれヒューイ……。

 それはそうと、ヒューイの母が処刑される間際に言った一言がすごく印象に残りました。あれは鳥肌立つなぁ。ま、あんなことがあれば屈折するのも仕方ないとは思いますし。
 浮かべた笑顔の種類は同じでも、そこで望んでいるものは違うわけで、それをヒューイが感じ取れるようになればいいわけですけれど。


 あとは……ちょっと一つ残念だったのが、ニキについてもうちょとt描写してほしかったなぁってところでした。主役としてヒューイとエルマーがいたので、どうしても影が薄くなりがちなんですよね、この子。今回の話で一番何かを得たのは彼女でもあることですし、もうちょっと印象強くてもよかったと思うんだけどなぁ。


 ま、そのほかの話はまだ伏線だけ張って語られていない状態なので、今後に期待ってことですね。マイザーさんのキャラにはちょっと笑ってしまいました。この人、随分と丸くなったんだなぁ……。




 それでは。ひさしぶりの感想でちょっと拙かったですが、きょうはこのへんで。
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CATEGRY : 成田良悟

『残虐記』 著/桐野夏生  感想

2009.11.08 *Sun
残虐記 (新潮文庫)残虐記 (新潮文庫)
(2007/07)
桐野 夏生

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 先生、ほんとにすみませんでした。でも、私のことはゆるしてくれなくてもいいです。私も先生をゆるさないと思います。どうぞ、お元気で。





 これは、一体どういう感想を書いていいのか困る一作です。

 この感想を書くのに一週間近くかかっています。ついでに、はっきり言って公開するのはずかしいくらい全然まとまっていません。
 けどまあ、とりあえず読んだ証しとしてあげてみます。

 正直、作家を目指す者として、景子の語る毒の夢の考え方はとても無視できないものです。けど、内容を考察をするとしても、なかなか御しにくいものだと思います。
 話としてのインパクトは少ないですが、文章からにじみ出る不気味さやほの暗さはすごく強いと思います。




 そんなわけで、内容も含めて感想を。







 とりあえずまず語るべきこととして、どこまでがほんとうでどこまでが虚構なのか、ということでしょうか。
 作中で景子が夢想した事件の真実にしてもそうですが、後日談的に描かれる生方淳一の編集部への手紙に書かれた事実。小海鳴海の『残虐記』に描かれたこととあえて描かれなかったことの差に、どういう意図があるのか。

 ただ、ここで虚実を検証するのは馬鹿らしいですし、ぶっちゃけラストの生方さんの手紙で書かれたことが正解だとは思うのですが。問題は、どうしてそう違いを作ったのかというところ。

 一番の可能性は、景子の体験をより小説らしく、作品らしくするためではないかと思います。作中で景子が毒の夢を見る描写がありますが、そこでは断片的な情報から、想像できうる範囲で、無理のない物語を夢想しているところがありますが、それと同じで、現実と作品の中での物語に緩急をつけることで、残虐記という手記をより小説らしくし、そのラストによって、『小海鳴海』という作家に終止符を打ったのではないか、と思いました。
 小海鳴海の残虐記の中で、彼女が『自分は才能の枯渇した作家だ』と語ったのは、そうした終わりを描くためじゃないかと思いました。作家として、『毒の夢』と語る想像力をもてあそんできたが、それはどんどん肥大し、とうとう扱いきれなくなった。そして、かつてケンジとの共同生活でうまれたそれを使えなくなったとき、作家としての彼女だけでなく、人間としての彼女も一つの終わりをむかえたのではないだろうか。

 少なくとも、ケンジとの生活がなければ、ここで語られる景子という人間は存在しない。それを証明するのが、手記の最後、ケンジとの生活の間における、景子の感情の変化。それまでかたくなに隠してきた彼女の本心をここで明かし、自分にとってケンジという人間がなくてはならない存在だったことを証明した。
 そして、ケンジとの世界を作ったところまでが一つ。そのあとその世界を壊して外に出たのが二つ目。そうして外に出た景子は、最終的にまたケンジとの思い出に戻ることになる。そんな形が作られているんじゃないか、とおもいました。


 うーん、我ながら何を語っているのやら。


 しかし、才能が枯渇するならまだしも、自身のうちからあふれてくるものを制御できなくなってダメになった作家の最後というのは、なかなか強烈なものがあるようにも思います。そして結局は、大きな世界、すなわち現実から逃げて、小さな閉じた、自分だけの世界に戻っていく。そんな物語だったんじゃないか、と思います。



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プロフィール

西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

拍手がえしに関してはこちらでご覧ください。
http://blogvote.fc2.com/pickup/emptyreader


年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


『空っぽの知識』の別館ですが、よろしくお願いします。
http://tukimaturi.blog89.fc2.com/

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