This Archive : 2009年09月

スポンサーサイト

--.--.-- *--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 著/辻村深月  感想

2009.09.30 *Wed
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
(2009/09/15)
辻村 深月

商品詳細を見る



 「あの、奥……それと」




 辻村さんの本気を久々に見た気がする。

 本書は、講談社創業百周年記念の、書き下ろし100冊企画のうちの一つ。本書を、辻村さんは一年かけて書いたらしいのですが、確かにそれだけの意気込みは感じる内容でした。
 はじめはちょっと内容がつかみづらくてきつかったんですけれど、途中から一気に面白くなってページをめくる手が止まらなくなりました。序盤のわかりにくさがあるからこそ、後半が生きてくるというのはわかるんですけどね。

 しかし、これは女性にしてみたら痛いところつかれた、という要素がたくさんあると思いますが、男の目線から見ると、やっぱり全部を理解できていないだろうなぁ、と思えるところがあります。もちろん、自分なりにちゃんと読み込んでそれなりの解釈は持っていますが、それでもやっぱり根本的なところで男と女は違うので、『理解した』と言いきるのはおこがましいかな、とも思ってしまいます。
 まあ、そんなこと言っても、面白かったことは確かです。ほんと、タイトルは特にすばらしい。







 では、下からはネタばれも含めて。







 とりあえず、問題となっているのは、女性同士の付き合い、母娘関係の二つがかなり重点的に書きあらわされてました。
 あー、もう。そこは辻村さん。『太陽の坐る場所』のときのようなぎすぎすした人間関係を描いてくれます。このときにすごいと思うのが、必要以上にことを荒げないで、ただ自然な会話の中にずれのようなものを入れて、ちょっとした感情の機微を入れているところなんですよね。別に、嫌な会話をしようとしているわけではなく、会話の端々に厭味な部分が出てしまう、というのは誰にでもあることだと思います。
 相手の一言に気を使ったり、相手の行動に合わせたりするのは現実では当たり前のことですが、だからこそ共感できる部分があるようにも思えます。男のプライドと女のプライドでは、見方が違うんだろうなぁ、と思わされました。


 みずほがチエミを追う過程で話をする旧友や関係者たちは、それぞれ一人一人違う視点からチエミを見ていて、それぞれがしっかりとした個性を持っているんだなぁ、とも思えます。ただ、ひとつだけ共通するチエミと母親の仲の良さが、人から聞くにつれてどんどんエスカレートしていく過程が、物語の一つの伏線として活用されていてすごいと思う。そういう関係だったからこそ、チエミが母に自身のことを告白した時に母の怒りが違和感なく受け入れられるんですよね。
 また、その話を観測するみずほの側で、別の母娘関係を語っていることが、非常に効果的だったと思います。どっちの親も、娘のことを想っているからこそ出た行動で、そのことを気にしつつもついつい干渉してしまう、という積み重ねが、奇妙な距離感を生んでしまったというのがわかります。

 一章のラスト付近で、みずほが母の手紙を見たときに感じた思いは、だからこそとても残酷だったと思います。『お母さん、これは、ひどい』。娘の気持ちを他人に確認する、という行為は、娘を信頼していないということにつながる。みずほの母は、自分の行動を正しいと思っていながら、それでも最後の最後で娘に拒絶されるのを嫌がったのでしょう。信頼し合うことができるほど近い位置にいるはずなのに、とても距離感が遠い、そんな親子の切っても切れない糸のような不器用さが、切なかったです。

 そんな風に、ひとつの母と娘の関係を見せられた後だからこそ、チエミとその母の関係が際立つように思います。幡目から見れば異常すぎるほどの過保護。他者から見ると限りなくいびつな関係ではあるけれども、その間には確かに愛があった。
 この親子に対しては、感情移入するよりも気味が悪いと思う方が多いようにも思いますが、それでも最後の母が娘に向けた言葉は、純粋だと思います。ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。それまで大事に大事に箱の中にしまっておいた娘を、やっと認めてあげた。子離れも親離れもできていなかった二人は、半強制的にさせられたわけですが、それでも二人の間にいびつながらも強固なつながりが残っていたことが、切ない。そういう物語だったと思います。



 このタイトルがここまでの効果を発したのは、チエミの親子の話の中で、さらりと流された過去の一つだったからでしょうね。疑問だけを提示しておきながら、必要以上に機にしなかったからこそ最後に「なるほど」と思わされたように思います。
 しかし、終わりがさわやかだって言う人が多いが、冷静に考えると二人とも傷だらけなんですよね。みずほは母との関係はおそらく今以上によくはならないでしょうし、チエミに至っては取り返しのつかない状況に追い詰められて、唯一よりどころにしていた子供さえいない。そんな痛みだけの状況で終わってしまったのも、ある種の象徴のように思えるのですが、どうでしょう。
 まあ、みずほに関しては、なんとか折り合いをつけて生きていきそうですけどね。




 さてさて。本筋はこれくらいで。

 個人的に一番怖かったのが及川さん。いやあ、確固たる自信から来るプライドってのは、正直苦手なので怖かったっす。がんばれば何でもできる、というのは確かですが、がんばることをがんばるのが大変だってのを分かってもらえないのはきついものですよ。
 一番嫌なやつは、やっぱり大地。なんだこのDQN。自分の非を他人になすりつけるやつが一番最悪だ。男でプライド高い奴はこうなっちゃうから嫌なんだよなぁ。

 逆に、よかったのはやっぱり翠。うーん、最初は変なやつが今さら出てきたなぁ、とか思いましたが、ここまで純粋なのはどうなの?と思うくらい純粋。この子の物語はちょっと中途半端でもありますし、どこかで登場してくれないものだろうか。

 あと、みずほについては、考えてみたら『凍りのクジラ』の理帆子の焼き回しだよなぁ、と思ってみたり。ただ、みずほは理帆子よりもしっかりしているか。それと、啓太さんのようないい男をつかまえるあたり、要領もいいかも。



 久しぶりに辻村さんの作品でしっくりきた気がします。やっぱり辻村さんは連作だったり短編だったりより長篇だよなぁ。それと、今回は露骨な名前ネタがなかったので、違和感もあんまりなかったですし。
 ただ、このまま完全に女性関係の話ばかりによるのはちょっと残念なので、もう少し中立の話も書いてほしいなぁ。特にスロウハイツ並みの物語をもう一度読んでみたい。がんんばれ、辻村先生。

スポンサーサイト
COMMENT : 0
TRACKBACK : 1
CATEGRY : 辻村深月

『追想五断章』 著/米澤穂信  感想

2009.09.27 *Sun
追想五断章追想五断章
(2009/08)
米澤 穂信

商品詳細を見る



 すべてはあの雪の中に眠っていて、真実は永遠に凍りついている。




 というわけで、米澤穂信の新刊、やっと手に入りました。

 しかし、分量と文体の割には、構成に無駄がないからか、さくさくと読めた気がします。一つ一つの要素が次への布石になっていて、最後にしっかりと謎解きがされるという、ミステリとしては基本の方式ですが、題材が題材だからか、新鮮に読めました。
 僕としてはすごく面白かったのですが、物語としての盛り上がりはそれほどないので、そういうものを期待する人にはお勧めできないかもしれません。そもそも、帯の煽り文章が『青春すぎ去りしあとの人間を描く』ですしね。
 個人的には、最後の『雪の花』に至るまでに、主人公の視点から断章の執筆者である北里の視点にシフトできれば、それこそぐっと来る余韻が感じられるのではないかと思いました。



 それでは、ここから先はネタばれありで。




 この作品のキモである、叶黒白の短篇を、いかに読むかが、楽しめるか楽しめないかの境だなぁ、と思いました。
 僕自身、あまり時代がかった文体は好きではないので、はじめの『奇跡の娘』の文章では、ちょっと戸惑いました。けれど、これに関しては、最初は流し読みしても終わりでどういう問題が浮上するのかはしっかりと読めると思うので、次に続けることができます。
 その次の『転生の地』で僕は面白いな、と思うことができたので、ゆっくりと物語の中に入っていくことができました。もしここで入れなかったら、次の『小碑伝来』はもっと文体が堅いので、ちょっときついかもしれないなぁと思いました。
 そして、この断章をよく読んでみると、結末は確かにしっかりとあてはまるけれど、何か坐りの悪い気持ちがするように思えてきました。まあ、それが結局はわざとやっていたせいなのですけど、そういうところもうまく作ってあるなぁ、と純粋に思います。(そして、それをバラバラにした北里の真意も、娘を思う気持ちとしてしんみりとなれてうまいと思う)


 物語の主人公である芳光のキャラも、この話としてはきれいにマッチしていたと思います。
 芳光は、話に深入りはしますが、しかしそれによって何か自分が強く変わることはありませんでした。もちろん、最終的にはこの件が終わったことで、実家に帰ることを決意しますが、それは結果として生じただけで、内面が変わることは一切なかったと思います。というより、変わりたいと願って断章探しをしていたけれど、変わることができなかった、という方が正しいのでしょう。
 そのため、彼の視点は非常にドライに感じます。一つ一つの断章を集め、それを読む。その時の芳光の心情はあまり描かれないので、読者は自分自身の気持ちで断章を読むことができます。そうすることで、最終的に『雪の花』において、読者はそれぞれの気持ちで北里の真意を想い、話を追えることができるのではないでしょうか。このはっきりしないところが嫌いな人はだめでしょうが、こういう雰囲気が好きな人にはたまらない話だと思います。


 しかし、思い返せば思い返すほど、この話は主軸以外はひどく現実くさい物語に思えてきます。そういうところが、本書を読み終えた後の脱力感や物足りなさを感じるのではないかと。
 実際、主人公は実家に帰っちゃうし、途中まで手伝ってくれた笙子はあっさりと調査からおりちゃうし、といろいろ現実的すぎる問題が多くあります。まあ、だからこそこの小説がおもしろいと思えるのですが、そこを肯定的に見るか否定的に見るかで評価が完全に分かれるところなんでしょう。ってか、正直空想の中でくらい夢を見たいと思っている人には、絶対にお勧めできないですよね。



 そんなわけで、個人的にはかなり楽しめました。ってか、米澤さんはほんと少しずつバリエーションを増やしているなぁ。どの米澤が好きかはその人次第。まあ、僕は今のところ全部好きです。

COMMENT : 2
TRACKBACK : 1
CATEGRY : 米澤穂信

『バッカーノ! 1934 完結編』 著/成田良悟  感想

2009.09.25 *Fri
バッカーノ!1934 完結編―Peter Pan In Chains (電撃文庫)バッカーノ!1934 完結編―Peter Pan In Chains (電撃文庫)
(2007/04)
成田 良悟

商品詳細を見る



 「おい……ガキ」



 フィーロ怖いよぉ(((( ;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 はい、というわけで、バッカーノ1934年完結編。長かった物語も、ここで終わりです。
 しかし、面白かったなぁ。シリーズの中でも、ドタバタの構成がそれほど入り組んでなかったからか、わかりやすかったですし。なにより、フィーロの出番が多いのがいいです。なんだかんだで、フィーロは主人公的なポジションにいますしね。




 さてさて、それではネタばれも含めて。





 フィーロさんブチ切れシーンばかりが印象に残って、他がどうでもよくなったのはさすがにダメか……。
 しかし、それまでただ流されるだけだったフィーロが、とうとうヤクザ屋さんらしい凄みを見せたんですから、そりゃあ興奮しない方がおかしいでしょ。しかも、基本フェミニストのフフィーロがですよ。それだけ、リーザの言葉にブチ切れたかがよくわかるエピソードでした。
 ほんと、あのときの豹変は凄かったですね。完全に不利な状況にいながら、その存在感と覚悟だけで相手を圧倒するという。思わずゾクっとしちゃいました。
 それでいて、ラッドに殺されそうになるリーザを助けたところも、やっぱりフィーロらしいなぁ、と思ってよかったです。それはそれ、これはこれ、という感じで割りきって、自分の中でしっかりと線をもっているところが、フィーロのすごいところだと思う。

 っていうか、まさか最後にリーザがあんな風にデレるとは思いませんでした。うわ、なんだこの基本に忠実なツンデレは。しかも何気にフィーロフラグ立てちゃってるし。お前、エニスがいるのにどうするつもりだ!


 最後の章で、マルティージョファミリーのみんなに迎えられるシーンはよかったです。




 さてさて。他の場面は。

 老夫婦困るの章は、老夫婦にしてみればいい迷惑だとは思いますが、しかしああいうカオスな状況っておもしれぇなぁ。ってか、テンションあげあげのグラハムさん最高。そして、落ち着いて怒られるグラハムさん最高。ほんと、話を聞かせるのは大変だけど、話を聞いたら物わかりはいいから憎めないですよねこの男は。

 しかし、ああいう風に店にみんなが集められたのが、ああいう風に伏線としてつながるとは思いませんでした。リカルドも、娑婆編で感じていた違和感がしっかりと払しょくされたので、すっきりです。ふむ、しかし、そういう不確定要素で混沌とした物語を、成田さんはよく操作できるよなぁ。

 あと、かなりメインはっていたレイルは、やっぱりちょっとうざい……。なんかこれって、チェスと通じるところがあるキャラですよね。まあ、それにはちゃんとした理由があるから、わからないでもないけど。……でも、最後の最後でまさか女の子だったとわかるとは。リカルドの時以上のびっくりですよ。

 そういえば、今回もジャグジーたちは振り回されるだけでしたね……。もう、彼らが逆に大暴れする展開は望めないのだろうか。まあ、こうして狂言回しっぽい立場にいるのも、彼らだからこそ面白いってのはあるんですが。


 あとは、ルネとヒューイの対面はなかなか面白かったです。アイザックの登場をそういう風につなげるか、と単純にびっくりしました。もう、ほんと群像劇書かせたら成田さんはすごいな。そして、自分が目玉とられたからとその腹いせに相手の目玉をとるヒューイ鬼畜ww。あそこでの会話は、いろいろ今後につながる伏線がありそうなので、ますます今後が楽しみです。




 そんなわけで、全部の場面を語るわけにもいかないので、要所要所だけで。

 しかし、混乱することが少なかったからか、三十年代編で、一番面白かったなぁ。ただ、後書きで語られているように、ちょっと削ったんだろうなぁ、ってところは多かったですが。そういうところも、今後の糧にしてもらいたいですね。

 では、この辺で。

COMMENT : 0
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 成田良悟

『バッカーノ!1934 娑婆編』 著/成田良悟  感想

2009.09.20 *Sun
バッカーノ!1934 娑婆編―Alice In Jails (電撃文庫)バッカーノ!1934 娑婆編―Alice In Jails (電撃文庫)
(2006/12)
成田 良悟

商品詳細を見る




 「ああ……悲しい……悲しい話をしよう」




 グラハムさんかっけー!

 というわけで、バッカーノ1934年編娑婆編。グラハム・スペクターのキャラはアニメの番外編でわかってはいたけれども、彼が暴れ出すとホントにおもしれぇ。というわけで、なんだかんだで一番好きなキャラはグラハムさんです。うん、少なくとも、話を聞かせることに成功すれば、物わかりはいい人ですしね。



 

 そんなわけで、下からはネタばれも込めつつ。






 ああ、もうキャロル可愛いなおい。
 何なんでしょうね、もう。キャロルの落ち着きのなさのおかげで、副社長の道に入った態度もよくわかりますし。あー、っていうか、アニメの印象が強いせいで、完全に声が脳内再生される。可愛いよキャロル若本だよ副社長!

 まあ、それは外側の出来事として。内容としては、グラハムVSラミアって感じでしょうか。しかし、すげーなグラハム。たった一人でラミアどもと渡り合っちゃってるよ。
 結局この巻ではなかったけど、グラハムとクリストファーの相対は燃えたなぁ。あそこのイラストがまたいい。どっちも、一度クレアにいいようにもてあそばれたって記憶があるからなおさら面白いなぁ。(まあ、クリストファーに関してはもてあそばれたってレベルじゃないけれど)

 この一連の話の主要人物の一人でもあるレイルについては、ちょっとなんだかうざったらしい感じがしました。うーん、たしかに、こいつがそういう思考に行きつく原因は規定されているから、文句を言うところではないと思うんですがね。しかし、次の巻を読むと、この巻でうざったらしいと思ったのが馬鹿みたいにもっとうざく……。

 そういえば、この巻でルネが不死者だってのがわかったんですよね。うーん、この因縁はどこにつながるんだろう。まあ、それはいいとして、この巻でのルネの見どころは、ただひたすら純粋に悪ってるところと、部下にどさくさにまぎれて「脱げ」って言われているところの二つです。いい根性しているぜ、部下の一人……。


 最後の章で、やっとシャムとヒルトンの詳細がわかりましたが、このために2001年があったんですねー。しかし、セラードがあれだけ時間のかかったことを、ヒューイさんは七十年も前に……。生粋の研究者だから、というのもあるんでしょうが、セラードの株がどんどん落ちている気がするのは気のせいじゃないですよね……。(まあ、あのじいさんは最初っから株なんてないかもしれませんが)



 ではでは、続きは完結編へ~。
COMMENT : 2
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 成田良悟

『バッカーノ! 1934 獄中編』 著/成田良悟  感想

2009.09.17 *Thu
バッカーノ!1934獄中編―Alice In Jails (電撃文庫)バッカーノ!1934獄中編―Alice In Jails (電撃文庫)
(2006/10)
成田 良悟

商品詳細を見る





 「アルカトラズ刑務所って、知ってるか?」




 こんにちわ、こんばんわ。そういうわけで、久しぶりの更新です。

 さて、今回はバッカーノの1934年獄中編をお送りします。といっても、実を言うと完結編まで読んじゃっているんですけどね。まあ、なんか感想を書くのに分割した方が書きやすいだろう、と思ってそれぞれの巻で感想を書きます。

 というわけで、1934年編の前編一つめ、獄中編です。とりあえず見どころとしては、フィーロとラッドの出会いでしょうか。そういえばこの二人ってまだ面識なかったよなー、とか思って、新鮮でした。こういう、別の事件のキャラがつながっていくのは、かなり好きです。



 では、下からネタバレ含めて。





 とりあえず、これは全部通して言えるけど、完全に割りを食っているのは明らかにフィーロ一人……。

 もう、かわいそうになるくらい踏んだり蹴ったりですね。まあ、それも最後にブチ切れたような感じでしたが。いやあ、ヒューイを出し抜いて目をくりぬいたところは震えたわ。それに、獄中編だけじゃ、本気でフィーロがフェリックス・ウォーケンの一人のように思っちゃうところがいい。フェリックス・ウォーケンの特色をうまく利用しているよなぁ。


 それはそうと、この巻で一番株が上がったのがラッド。正直、特急編でクレアにフルぼっこにされた様子が印象的すぎて、なんだか弱い感じに思っていたけれど、こいつ恐ろしすぎるだろ。まあ、そもそもが狂っているという描写は結構ありましたが、その最たるシーンがリーザを引きずってヒューイの下に現れるシーン。あそこは、イラストの効果もあってすごかった。靴音が次第に近づいてくる描写もうまかったしね。いやあ、ラッド怖すぎでしょ。
 っていうか、クレアとシャーネに食われちゃっているけど、考えてみたらこいつ強いんだよなー。そういえば、グスターヴォってあのルノラータの人だったっけ。そいつも軽くぶっとばしてるしなー。っていうか、義手つけてからさらに凄味が増しちゃって……。



 他の話はと言うと、新キャラがなんだかんだでいいキャラ多いなぁ。ヴィクターとかかなり好き。こういう、上司に突っ込みを入れる部下の図式は、あり得ないだけにかなり来るんですよね。娑婆編でのルネとか、グラハムについてもそうですけど。

 そういえば、グラハム・スペクターはこの巻が名前の登場最初ですが、正体がわからないように書いていたわけねー。僕はアニメの方で臨時急行編の内容知っているので、「うわ、グラハムさん暴れてるなww」と面白がりながら読んでいたんですが。これ、知らないで読んでいたらどういう気持ちになっただろうか、ちょっと気になります。



 ま、そんなわけで、次の感想は娑婆編に続きます。


COMMENT : 0
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 成田良悟

『インシテミル』 著/米澤穂信  感想

2009.09.10 *Thu
インシテミルインシテミル
(2007/08)
米澤 穂信

商品詳細を見る



 結城理久彦は、車が欲しくて応募した。



 何この表紙詐欺。
 というわけで、米澤穂信版クローズドサークル。バトロワじゃないよ、あくまでミステリだよ、な物語。

 面白かったです。こういう系統の作品は、ありふれている分作者の力量がまっすぐに問われるのですが、そこはさすが米澤穂信。エンタメとしての面白さも忘れず、それでいてミステリにおける最低限を保っていると思います。
 ただ、本格好きの人はそこまで面白くないかも。僕みたいなライトミステリ好きは気軽に読めて「おもしれー」と言えるんですが、ミステリとして凝っているかといえばそこまでひどく凝っているとは思えませんし。まあ、気軽に楽しむ分には十分面白かったです。っていうか、一気読み推奨。これは時間をおくともったいない。






 そんなわけで、こッから下はネタばれあり注意。







 話の内容の方は、いい感じにライトミステリーだったと思いますけど、所々でミステリーを皮肉っているところも面白かったです。まあ、物語の都合上、登場人物たちがミステリーっぽい行動を起こすのは仕方ないのでスルーすべきですが、たとえば渕さんみたいに論理的解決が通用しない相手がいる、というのを出してきたのは面白かった。極限状態で、人間がどうなるかなんてその時にならないとわからないんだから、できることは想像することだけだけれど、ああいう反応をとるのがほとんどだろうなぁ、と思ったりします。
 あと、凶器のメモ書きに注意を払わなかったり、とかも、ミステリに精通していたり、少しでもかじったことがあれば気になるかもしれませんが、ぶっちゃけそんなん気にしている余裕ないですもんね。まあ、そこの穴をついたからこそああいうトリックが完成されるんですが。


 登場人物について。

 主人公のキャラは、いい感じにひょうひょうとしていて、それでいて危機感がゼロでないところがよかったなぁ、と思います。これで自分が殺されることを考えていなかったら問題ですが、そういう恐怖もちゃんと描いてくれましたし。
 そして、解決編でのノリは、身の程をわきまえているけれど、自分の身の丈に合ったところは強引に行くところがかっこいい。そして、そういう立ち位置を貫いているからこそ、最後にああいう選択ができるんですよね。しかし、もったいないなぁ、五千万近く。

 須和名さんに関しては、結局最後のあのためだけの装置だったのか……。なんだかんだで、彼女の最後の評価の所為で、この物語で用意されたものが全部低レベルと切って捨てられているのが面白かった。そういうところ、米澤さんも本格というほどではないと理解してやっているんじゃないかと思えます。……これ、続編があるとしたら。自分でハードル上げているだけではあるけれど。

 関水に関しては、正直結構いいキャラしていただけに、犯人だとわかってちょっと衝撃でした。しかし、肝っ玉大きいなこいつ。いくら覚悟してきていると言っても、一日目の段階でお金の計算から凶器のことまでやりきったんだから。結局彼女がどうしてお金を欲していたのかは不明でしたが、ある意味語らぬが花だろうなぁ、とも思います。語らせるつもりなら、最初からもっと伏線張っただろうし。

 安東に関しては、いろいろすごく残念。自尊心ばっかり強くてギリギリのところでそんな風に崩れ落ちるなんて。始まりの動機と終わりの姿があまりにも憐れすぎて……。結構いいキャラしていたんだけどなー。


 しかし、最初はだれがだれか判別するの大変だったけれど、ちゃんと登場人物に個性をつけてくれたのと、自己紹介のページをひとつにまとめてくれたおかげで案外早く把握できた。そういうところも、うまいなぁ、と思った作品でした。


COMMENT : 0
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 米澤穂信

『ゴールデンスランバー』 著/伊坂幸太郎  感想

2009.09.08 *Tue
ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
(2007/11/29)
伊坂 幸太郎

商品詳細を見る



 「お母さんが、これ、押してあげなさいって」






 すっげぇ面白かった。
 久々に続きが気になって、ドキドキしながら読んだ。

 あー、もう。古本じゃなくて普通に定価で買っても損ないわ。素晴らしい。伊坂幸太郎の集大成と言うだけのことはある。今までの伊坂さんの書いてきた物語の要素がこれでもかと盛り込まれ、それでいて全然無理な感がない。
 もちろん、話としての消化不良な感もあるが、それは第三部の『事件から二十年後』を読めばある程度補完できるものだし、また終始エンターテイメントに徹する、と公言しているので、別に巨大な何かに打ち勝たなければいけない、ということもないと思います。

 書いた時期が同じということで、モダンタイムスと似通った部分が多いですが、モダンタイムスが巨大な組織に立ち向かう姿を描いたのに対して、ゴールデンスランバーは巨大な組織からどうやって逃げるか、を主体にしていると思います。

 しかし、ほんとすごいなー。伏線の張り方もさりげないし、思い出したところで回収してくれるのですごくうれしい。登場人物の個性もちゃんと生かせているという、もう文句なしの作品です。

 あー、ほんと、これ候補辞退しなかったら直木賞取れただろうなぁ。






 それでは、ここから下はネタばれありで。







 つーかね、もう五部の事件から三ヶ月後とか、まじで感動して泣きそうでしたから。
 とくに、「たいへんよくできました」は、ここでもってくるか、と唸りました。すげーグッドタイミング。青柳雅春の物語の一つの終結としては、一番うまい締めだと思いました。このオチのおかげで、バッドエンドに近いトゥルーエンドが、すごくさわやかになったように思います。


 どうしても話の内容的にモダンタイムスと比べてしまいそうになりますが、やっぱりモダンタイムスがいろんな人間の主張を描いたものであるのに対して、ゴールデンスランバーの方は、エンタメに徹しているがために、ここのエピソードだったりキャラクターだったりの要素が強いように思います。

 もう、でてくる中心人物のどいつもこいつもいいキャラしているんですよねー。それでいて、結構自然な人間を描いているようにも思いますし。

 個人的に、一番父親が感動でした。うわ、こういう父親っていいなぁ。最後まで味方なのは肉親だってのも、すごく納得できるし。もしかしたらやってるんじゃないか?と思っていても、最後まで信じてくれる、というのがいいです。そして、父親のマスコミに対する啖呵にしびれました。そうだよ、他人の人生を踏みにじるんだから、同等のものを賭けろよ。

 他にも、森の声の森田さんとか、廃車を教えてくれたカズだったり、元カノの樋口さんといった旧友メンバーとの過去回想も面白かったですし、ロック信者の岩崎さんなんかは別の場所でも出番欲しいくらいにキャラが立ってたと思います。ロックだぜ、青柳。
 あと、残念だったのはキルオ。ちょっと退場が早すぎて残念だったかも。便利すぎたから早々に退場しちゃったという目もあるけれど、こいつの話ってのももう少し見てみたかった。
 それと、保土ヶ谷さんがすげー意外なところででてきたのにびっくりしました。第一部での印象が強かったので、出てきてすぐにここでもってくるか、って思いました。
 花火屋のおっちゃんにしても、うん、出所をわきまえてるなぁ。ってか、ほんと青柳と深くかかわった人間のほとんどが彼が犯人じゃないと確信しているのが地味に感動です。そういうのはお約束の反中ではありますが、青柳の野暮ったさを想うと、説得力があるからなぁ。(不良たちのシーンはむしろ笑っちゃいましたが)


 ほんと、これは面白かった。
 全部読み終わったあとに、第三部の『事件から二十年後』を読みなおして、さらに面白さが増すところがすばらしい。
 まあ、僕はそれを読む前にネットでその真相を知って、あわてて読み返したんですが。……まさかライターがあいつだったとは。
 森の声が聞こえますぜ。


 そんなわけで、素晴らしい読書でした。どうもごちそうさま。

COMMENT : 0
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 伊坂幸太郎

『バッカーノ 1933 上・下』 著/成田良悟  感想

2009.09.03 *Thu
バッカーノ!1933〈上〉THE SLASH クモリノチアメ (電撃文庫)バッカーノ!1933〈上〉THE SLASH クモリノチアメ (電撃文庫)
(2004/09)
成田 良悟

商品詳細を見る


バッカーノ!1933〈下〉THE SLASH チノアメハ、ハレ (電撃文庫)バッカーノ!1933〈下〉THE SLASH チノアメハ、ハレ (電撃文庫)
(2004/11)
成田 良悟

商品詳細を見る




 「だって私、刀を二本持っているんだよ? 二倍が二本で、貴女の四倍だよ! アミーゴ!」




 いや、そういうことは思っても絶対に言わねぇよ!

 というわけで、突っ込みどころ満載なセリフを引用したところで、バッカーノの五作目の感想と行きます。
 いやあ、盛り上がってきたー。今まで名前は出てきたけどいまいち活躍していなかったキャラたちが、どんどん暴れまわってくれます。新キャラがちょっと把握するのが大変ですが、その辺は慣れです慣れ。全員が刃物使いというのもまたいいですねー。いやあ、ロマンですよ。




 まあ、というわけで、下からはネタバレ含みます。






 作者的には、今回の巻はマリアとチックが主役だったみたいですが、ぶっちゃけいつもどおりの馬鹿騒ぎで、誰が主役だかわからない話でしたなー。個人的にチックとティムの関係がクライマックスを盛り上げてくれたので、そっちの方が印象強いんですが。
 あと、元クレアこと、元ヴィーノこと、元フェリック・ウォーケンとシャーネの恋愛模様がよすぎる。こいつらいつの間に仲良くなったんだ? と思ったら、『臨時急行編』で語られてるのかな? とりあえずアニメの番外編でそれっぽい話はあったのでわかったけれど。いやあ、しかし。シャーネのやつ、ベタボレじゃないか。
 クレアとフィーロの再開シーンは、殺伐とした状況のくせに一気に和んでなんだか良かったです。ああいう混沌とした状態で、場の空気をちゃんと誘導できるってすごいなぁ。


 そういえば、ここで悪魔の伏線の回収がやっときましたね。前回の巻でエルマーが「マイザーのそばにいてやってくれ」と言っていたのをすっかり忘れていたので、ロニーが一体何なのか最後までわかりませんでした。そっか、悪魔か。そりゃあ、いろいろ奇跡じみたこともできるわなぁ。
 しかし、真面目にカモッラの幹部やっているとは思いませんでした。自分が興味あったから、というのもあるかもしれないけど、思ったより真面目なんだなぁ。マイザーからも結構信頼されているみたいだし。この存在が、今後どう生きてくるか楽しみです。


 それはそうと、フィーロはセラード食っちゃったけど大丈夫なの? という疑問がとうとう明かされましたね。ふむ、まあそりゃシリーズが続けば一度は出さないと問題が出てくるよな。そもそもセラードはフィーロからしたらかなり価値観が違う相手だし。
 その自己矛盾に苦しむフィーロがとった手段が、なんていうかちょっとかわいそうでした。その果てに得た答えも、そういうものだからなぁ。一巻の現代編では、その辺はちゃんと乗り越えているみたいなのでいいですが。
 あと、エニスとの関係も、ちょっとかわいそう……。まあ、一巻の時点で、思いを受け入れられるまで五十年かかったと言っちゃっていますし、しかたないっちゃしかたないですけど、なんかホント報われねぇなぁ。がんばれフィーロ、負けるなフィーロ。


 他には、吸血鬼だったりヒューイさんの暗躍だったりといろいろありましたが、その辺は時間以降に持ち越しか。正直、最後のヒューイさんにはいろいろ思うところがあるけれど、とりあえず、いちばん研究者然としている奴だよな、この人。シャーネの妹とか、ちょっと残酷だぜ……。



 ま、そんなところです。
COMMENT : 2
TRACKBACK : 0
CATEGRY : 成田良悟

プロフィール

西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

拍手がえしに関してはこちらでご覧ください。
http://blogvote.fc2.com/pickup/emptyreader


年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


『空っぽの知識』の別館ですが、よろしくお願いします。
http://tukimaturi.blog89.fc2.com/

初めての方は、カテゴリ内の『未分類』を先に読んでください。



最新記事



最新コメント



最新トラックバック



月別アーカイブ



カテゴリ

未分類 (3)
読書日記 (3)
漫画日記 (32)
漫画の紹介 (3)
浅田次郎 (1)
綾辻行人 (1)
有川浩 (2)
有沢まみず (1)
五十嵐貴久 (1)
伊坂幸太郎 (3)
井上堅二 (2)
歌野晶午 (1)
浦賀和宏 (1)
乙一 (1)
賀東招二 (1)
鎌池和馬 (6)
貴志佑介 (1)
北村薫 (1)
京極夏彦 (2)
桐野夏生 (1)
佐藤友哉 (1)
沢井鯨 (1)
沢村凛 (1)
白河三兎 (1)
新海誠 (1)
鈴木大輔 (1)
竹宮ゆゆこ (2)
多島斗志之 (1)
辻村深月 (5)
土橋真二郎 (1)
中島らも (1)
成田良悟 (15)
西尾維新 (17)
野村美月 (1)
橋本和也 (2)
姫野カオルコ (1)
本多孝好 (2)
円居挽 (1)
道尾秀介 (1)
湊かなえ (2)
武者小路実篤 (1)
望月守宮 (1)
森絵都 (1)
森見登美彦 (1)
薬丸岳 (2)
柳広司 (1)
米澤穂信 (10)
翻訳小説 (2)
日高由香 (1)
越谷オサム (1)



FC2カウンター



検索フォーム



RSSリンクの表示



リンク

このブログをリンクに追加する



ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる



QRコード

QRコード



フリーエリア

西織の最近読んだ本



Copyright © 空っぽの知識(読書日記) All Rights Reserved.
Images from ふるるか Designed by サリイ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。