This Category : 薬丸岳
『闇の底』 著/薬丸岳 感想
2009.10.21 *Wed
闇の底 (講談社文庫) (2009/09/15) 薬丸 岳 商品詳細を見る |
「自分の中にもサンソンがいます」
ちょwwオチwwww
いや、笑っちゃいけないんですけどね。すげー真剣な話なんですけどね。でも、結局そういう風にしか落ちつけなかったってのが、やっぱシュールです。
とりあえず、内容としては、薬丸岳さんの前作『天使のナイフ』と同じで、犯罪加害者と犯罪被害者の関係を描いた物語です。
ただ、『天使のナイフ』以上に救われないという意味では、より現実的ではあるかなぁ、と思います。結局、どれだけ偉そうなことを言っても、当の本人たちの気持ちはわからないってものです。
とりあえずネタバレありで感想を。
まあ、一番焦点とすべきところは、最後の長瀬の選択でしょうね。
天使のナイフでは曖昧にすることで考えを促したテーマを、最後の長瀬の決断によって、真正面から突き付けてきた。一人の人間の出した答えを提示することで、『おまえはどう思う?』と問いかけてきたように思います。
復讐、報復、といったものの是非については、テーマとしてありふれたものなので、今更語るのもなんなんですが、個人的には時と場合によってはありかなぁとか思ったりします。
逆恨みのようなものはもちろん論外ですが、犯罪被害者には何のフォローもない現状では、こうして被害者が加害者を恨む気持ちってのはなくせるものじゃないですし、その解消として報復を選ぶのも仕方ないと言わざるを得ないように思うのです。もちろん、それを賛成してしまったら秩序なんて無くなりますので、賛成するとは言えないのですが。
もしそういったものをなくしたいと思うのなら、もっと被害者へのフォローが必要でしょうね。それこそ、『天使のナイフ』で描かれた内容でもありますが、復讐なんてことを思いつく状況をなくすことが、まずは必要なんじゃないかと。
ま、こんなことはもう今までも語りつくされている内容なので、考察するまでもないんですけど。
それより、この本で面白かったのは、ミスリードの仕方だと個人的には思いました。
まあ、勘のいい人なら気付いたかもしれないですけど、僕なんかはきれいにだまされまして。うまく長瀬の父親を途中で出してきたところがナイスだったなぁ。あれがなかったら、小坂でもそこまで驚かなかったと思う。
しっかし、サンソンの行動理由が義憤からじゃないってのは、サンソン視点の章でわかってはいたけれど、まさかそういう理由とは……。正直、小坂に関しては、逃げでしかないから全面的にこいつが悪いとしか言いようがないように思う。長瀬もとんだとばっちりくらったようにしか見えないし。まあ、多分狙ってやったんだろうなぁ。
正直、話としてはミスリードの方が面白かった所為か、主題の方がちょっと弱い感じもします。まあ、『天使のナイフ』でしっかり描かれていたから、っていうのもあるんですけどね。
なにはともあれ、面白かったです。
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CATEGRY : 薬丸岳
『天使のナイフ』 著/薬丸岳 感想
2009.07.28 *Tue
天使のナイフ (講談社文庫) (2008/08/12) 薬丸 岳 商品詳細を見る |
「大勢の人間を不幸にしたあんたの罪は軽くない」
第五十一回江戸川乱歩賞受賞作。
その評判は方々で聞いていたので、ずいぶん前に購入はしていたのですが、ようやく読了。
なんで今まで読まなかったのか、とかなり後悔しています。
もう、これは絶対にお勧めです。
共感するかどうかとか関係なく、全員に読んでもらいたい。そして、それぞれで自分の考えをちゃんと考えてもらいたい。
語られていることは陳腐なことですが、それゆえにかなり深い。
内容ネタバレなしにかける自信がないので、ここから先はネタばれありで。
この本は、罪を犯した人の更生についての物語です。
語られている内容は、本当に単純なんですよね。ただ、被害者が加害者を憎む、憎しみの連鎖が止まらない。その連鎖を止めるための一つとして設けられている『少年法』が、余計にその連鎖を強くしている。
物語の主人公、桧山の視点で物語は進むから、彼の考えに感情移入するのは仕方がないと思います。どうしようもないほど被害者でしかない彼は、ただ加害者を憎み、何もしていないとはずの妻が殺されるという不幸を嘆く。けれども、この立場を途中で逆転させるところがこの小説のすごいところだと思います。
被害者だったはずが一転して憎しみを受ける加害者の立場に。その時の桧山の感情を推測させる形だったのがまたいい。自分も今まで、被害者の立場として憎しみをずっと持っていただけに、相手の気持ちをむげにすることはできない。けれども、相手の言葉をすべて肯定するわけにもいかない。そのはざまで揺れる中、最後に桧山が、すべてわかった上でも妻を愛していると言ったところが、べたですが印象的です。
個人的には、少年の更生に、被害者の家族が悪影響を及ぼすとは思えません。っていうか、そんなことしたら罪を罪と認識しなくなるんじゃないでしょうか。
なんで自分がつかまっているのか。まだ考えが幼いからこそ、そういう事実と少しずつ向き合っていくシステムが必要だと思います。もちろん、被害者の方は怒りを抑えられるわけがないから、ひと悶着起こるかもしれないけれど、それをなくすために被害者の方のカウンセリングもちゃんとやりながら、とか。
そういうシステムが欠如しているのは、単にその費用が足りないから、というだけじゃないでしょうか。もちろん一般に言われているように、未成年のプライバシーの保護もあるんでしょうけれど、それだけにしてはあんまりにも被害者家族の扱いが不当に思えるんですよね。そりゃあ、これだけがっちりとガードされて守られれば、怒りのぶつけどころのない被害者は復讐もしますって。
本当の更生ってのは、桧山の妻みたいに、自分の罪と向かい合って、一生かけて償う覚悟をすることなんじゃないかと思います。そのためには、やっぱり被害者家族との接触は必要だと思うんですけどね。(桧山の妻にしても、完全な形での接触はしていないわけですし)
この小説を読むと、どうしても東野圭吾の『手紙』を思い出しますが、ふたつを比べながら考えるのもまたいいと思います。一方は被害者家族の立場を、一方は加害者家族の立場を描いた作品です。どっちも、結局はどうしようもないという結論を出して、その中で自分たちがどう生きるか、に焦点が当てられますが、そこから学ぶべきものはたくさんあると思います。
そういえば、この小説の深みをより魅せるのが、ミステリー要素というか、話の構成です。
どんでん返しだったり、あの万華鏡の話だったりといった伏線回収も凄いですが、それよりも解説で言われた、祥子のトラウマがあったからこそ起きた悲劇というのが、一番ぞくっときました。まさかそこまで計算ずくだったとは。そして、終章で語られる真実が、桧山の物語のひとまずの終わりとしてきれいな形でした。
もう、文句なしにすごい作品でした。ほんと、それ以外にことばが出てこないわ。本当はもっと言いたいことたくさんあったんですけれど、ただ独語の余韻に浸っているとそういうのが全部どうでもよくなる。
もちろん、考えさせられるべき所はしっかりと考えるべきですけどね。そういったことを踏まえて、やっぱり誠実に生きるのが一番だよ。ほんと。
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