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『若き日の思い出』 著/武者小路実篤  感想

2009.05.22 *Fri
wakakihi.jpg
若き日の思い出 (1966年) (旺文社文庫)


 貴きものは死に、貴きものは生まれる。
 生まれ死ぬ。死ぬ生まれる。かくて人生は常に新しく、常に新鮮である。貴きものが死ねば、また貴きものが生まれる。
 かくの如く母は死に、翌月娘は生まれた。





 なぜかアマゾンのリンクに画像付きのものがなかったので、自分で画像を探して代用しました。

 いやあ、面白かった。
 物語自体はあまり起伏もなく、予想を裏切るような展開もなく、派手さもあまりないのですが、それでも不思議とページをめくる手を止められませんでした。
 別に、ぐっと心をつかまされるような面白さがあるわけじゃないんですよね。次が気になって仕方がない、ということもない。でも、自然と目は次の文字を追っている。そんな、不思議な魅力のある小説だと思います。

 武者小路実篤の小説は、僕は『友情』『愛と死』『真理先生』のみっつを読んでいるのですが、個人的にはこの『若き日の思い出』が一番読みやすかったですし、読後感もよかったです。『真理先生』も読後感は結構よかったのですが、結局何も起こらずに集結しちゃった感じがあったので。
 作者自身が、自分の作品の中で一番多くの人に愛読されていいと思う、というだけのことはあると思います。そんな不思議な魅力がありますし、とてもさわやかな読後感がある。


 話としては、主人公の野島が、友人・宮津の妹・正子に恋をしてもだえる、というだけの物語です。しかし、悶える過程がそこまで真に迫っていないのですよね。ただ、自然と目で彼女を追っている、自然と彼女のことを考えている。そんな無垢な感情がほほえましくすらあります。
 野島の視点から見える正子の描写は、本当に真摯に見えるんですよね。『美しい』という言葉ももちろん使われますが、そのほかの魅力もしっかりと描写しきっている。また、彼女に対する嫌な部分のちゃんと見つめている。それでもなお、彼は正子のことが気になって仕方がない。そんな様子がとてもよかったです。


 ただ、この小説の魅力は、野島と正子の恋愛だけではありません。

 この小説は、起伏がほとんどありません。野島の心情は確かにかなり動きますが、それでもほとんど問題なく、野島と正子は結ばれます。それはほとんど予定調和なので気にする必要がないのですが、それゆえに盛り上がりが足りない、と思うこともあると思います。

 その盛り上がりの部分は、別の所にあると思います。
 たとえば、正子の父親だったり、画家の川越だったり。彼らが主張をし始めるのは、特にラスト付近ですが、その時の彼らの人生観にはぐっと来るものがありました。

 特に宮津父が語る言葉は、一つ一つがかなり身にしみるように思えます。母の愛に育てられ、母を尊敬してやまないその姿勢。女を馬鹿にするということは母を馬鹿にすることだ、というのは、当時の日本でいえばかなり衝撃的な言葉だったかもしれません。それだけに、かなり深みのある言葉だと思います。
 娘を嫁にやる父親の言葉、というのは、現実でもかなり重要なものであるため、そういったものを取り扱う小説にとってかなり大切な部分であると思います。下手な確執がなかっただけに、どうするのかと思ったら、ただ真剣に、父から子へと大切なことを伝える、ということに従事していたところがすごいな、と思いました。

 また、川越に関しては、武者小路実篤の他の小説でいうと、馬鹿一みたいな立ち位置かな、と思ったら、それよりもっと情熱的で、真摯で、誇り高い姿勢だったので、ハッとさせられました。絵に関して譲るところがないその考え方は、たとえ絵に興味がなくても惹かれていくと思います。簡単に何かを極めた、ということはできない。それを大切だと思っているからこそ、とても厳しい目で見てしまう。その主張には、何か真剣になれるものを持っている人には、同調できるものがあるはずです。



 この小説の主題にある、『親の子に対する無私献身的な母性愛と理性的な父性愛』というのが、読んだ後にしみわたってくるように思います。
 宮津父が語る、今の自分がいるのは祖先が生き延びてきた証拠だ、というのは、もう現在では語りつくされていることではありますが、それでも感じ入るような魅力があるように思います。もし未読の方がこの感想を読んでいるのなら、ぜひ一度読んでもらいたい。特別に何かを得られるわけではありませんが、このさわやかな叙情感は悪いものではないです。

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プロフィール

西織

Author:西織
大学に入学を果たしたただの読書好き。

拍手がえしに関してはこちらでご覧ください。
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年齢:19
誕生日:九月九日
血液型:A型
趣味:読書
夢:作家(前途多難)


主に好きな作家
・西尾維新(番外位)

・奈須きのこ
・辻村深月
・佐藤友哉
・竹宮ゆゆこ

上記の作家の全ての作品を愛しています。

主に好きな漫画家
・児玉樹
・荒井チェリー
・椿いづみ
・福本伸行

漫画の神
・手塚治虫


補足
西尾維新の傑作はきみぼくシリーズだと思って日々を生きています。あのよさをわからない人間が多くて残念に思う。(とくに四作目)
そんな僕は生粋の西尾信者なので、いくらでも語れますし、いくらでも語りつくしてやりますよ。


『空っぽの知識』の別館ですが、よろしくお願いします。
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